背景
産業用ポンプを製造するETO製造業。製番(受注番号)ごとに異なる仕様の製品を年間300件製造していた。各工程の検査記録は紙の検査成績書に手書きで記録され、完成後に製番ごとのファイルに綴じて保管していた。
顧客から品質クレームが届いた際、「どの材料ロットを使ったか」「誰が検査したか」「検査値はいくつだったか」を調査するために、担当者がファイルを手作業で探す必要があり、1件の原因調査に平均3時間かかっていた。
課題
- 紙検査記録のファイリングミス・紛失が年間数件発生
- クレーム発生時の原因調査に3時間の手作業が必要
- 複数工程の記録を横断して確認できず、製造履歴の全体像を把握できない
- 定期的な品質監査の際、記録を揃えるだけで2〜3日かかる
- 手書き文字の判読困難による転記ミスが品質傾向分析の障害になっていた
ソリューション
タブレット入力と製番バーコードによるデジタル検査記録システムを構築した。
システム構成:
- タブレット入力端末: 各検査ステーションにiPad mini(防塵カバー付き)を設置
- バーコードスキャン: 製番・部品ロット番号をバーコードで読み取り、手入力エラーを排除
- 検査フォーム: 製番をスキャンすると、その製品の仕様・検査基準が自動表示(Web App)
- データベース: PostgreSQL(クラウド)に検査記録を保存。製番・検査員ID・タイムスタンプ・測定値を構造化して格納
- 自動合否判定: 入力された測定値と検査基準値を自動比較し、合否を即座に表示。NGの場合は次工程への移動をブロックするアラートを表示
- レポート生成: 製番指定で検査成績書PDFを自動生成(監査・顧客提出用)
導入の工夫:
現場オペレーターへの展開において、「タブレットが使えない」という抵抗を最小化するため、フォームの設計をできるだけシンプルにした。数値入力は数字キーボードのみ、選択項目はタップ式、文字入力は必要最小限にとどめた。展開前に1週間のトライアル期間を設け、現場フィードバックをフォームデザインに反映した。
開発工数: 約6週間(フロントエンド開発3週間、バックエンド・DB設計2週間、現場展開1週間)
結果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| クレーム原因調査時間 | 平均3時間 | 平均27分(85%削減) |
| 品質監査の記録準備時間 | 2〜3日 | 30分(PDF自動生成) |
| 検査記録の紛失 | 年間数件 | 0件 |
| 品質データの分析活用 | 不可(手書きのため) | 月次不良傾向レポート自動生成 |
導入後、クレーム対応の所要時間が劇的に短縮されたことで、顧客への回答速度が向上し、顧客満足度の改善にも貢献した。また蓄積した品質データを使った傾向分析が可能になり、特定工程の測定値ドリフトを予兆段階で発見・是正する改善も生まれた。
現在は蓄積データを活用した「工程能力指数(Cpk)の自動計算・アラート機能」の追加開発を進めている。