背景
精密加工部品メーカー。主要設備6台(マシニングセンタ3台・旋盤2台・研削盤1台)の稼働実績は、担当オペレーターが手書きで日報に記録していた。OEEは月1回、生産管理担当者がExcelで集計していたが、集計に1人×5時間/月の工数がかかっていた。
最大の問題は「データのラグ」だった。月次集計では問題が起きてから4週間後にしか把握できず、改善のPDCAが回らない状態だった。OEEは年平均62%台で推移し、改善の糸口が見えていなかった。
課題
- 月次手集計では問題発生から把握まで最大4週間のラグ
- 日報の記録精度がオペレーターに依存し、停止理由の分類が不統一
- 短時間停止(チョコ停)が記録されていないため、実態より可用率が高く見えていた
- 設備ごとのOEE比較ができず、ボトルネック設備が特定できていなかった
ソリューション
既存PLCの信号出力を利用した低コストIoTシステムを構築した。
技術スタック:
- データ収集: PLCデジタル出力(稼働/停止)→ 汎用IOモジュール(M-System製)→ MQTT → Python収集スクリプト
- データストア: InfluxDB(時系列データベース)
- 可視化: Grafana(ダッシュボード)
- インフラ: オンプレNUC PC(1台で6設備を処理)
なぜGrafanaを選んだか:
Power BIも候補に挙がったが、製造設備のリアルタイム時系列データを扱う場合、Grafanaの方が優れていた。理由は以下の通り:
- InfluxDBとのネイティブ連携により、秒単位のデータも高速に描画
- アラート機能が標準搭載(設定閾値を下回ると即座に通知)
- 更新頻度の制限がなく、5秒更新のリアルタイム表示が可能
- ライセンスコスト不要(OSS版で十分な機能)
ダッシュボードの設計:
- 現在の設備状態(稼働/停止/段取り)をリアルタイム表示
- 当日・当週のOEE(可用率×性能率×品質率)
- 停止理由の分類別累計時間(パレート図)
- 過去12ヶ月のOEEトレンド
段取り中・故障停止・チョコ停の区分は、停止時間に応じて自動分類(5分未満:チョコ停、5〜30分:段取り、30分超:故障停止)し、例外は現場オペレーターがタブレットから事後登録する方式とした。
投資額: 約50万円(IOモジュール・サーバー機材・構築工数込み)
結果
| 指標 | Before | After(8ヶ月後) |
|---|---|---|
| OEE(平均) | 62% | 79% |
| 可用率 | 78% | 89% |
| 段取り時間(月合計) | 約420時間 | 294時間(30%削減) |
| チョコ停発生回数(月) | 不明(記録なし) | 142回(可視化・削減進行中) |
| 月次集計工数 | 30時間/月 | 0時間(自動化) |
可視化によって明らかになった最大の改善点は「段取り時間のバラツキ」だった。同じ品種の段取りでも、オペレーターによって30〜90分のバラツキがあることが判明。段取り手順書の整備と事前準備チェックリストの導入で、段取り時間の平均を30%削減することができた。
OEEのリアルタイム可視化は、現場の改善意欲にも良い影響を与えた。「今日のOEEを上げたい」という動機が生まれ、オペレーター自身が停止原因を記録・報告するようになった。